商いの道にめっぽう厳しい惣次。同じく商いの道に邁進しようとする幸を気に入り、四代目徳兵衛が事故で亡くなったあと、惣次は五代目徳兵衛となり、幸を嫁としますが…。
もし四代目徳兵衛が転落死していなかったら、惣次は大坂船場の呉服屋「伏見屋」の末娘との縁組が予定されていました。もっとも惣次は次男坊ですから「伏見屋」と婿入り縁組すれば、五鈴屋の家業からは手を引くことになります。
あきない世傳(せいでん) 金と銀 惣次が持つ商いの才能
船場の「伏見屋」が惣次に目をつけたのは、呉服屋同士の縁組や血筋を固めるという目的もありましたが、それよりも同じくらい重視されたのはその商才です。
実は惣次は五鈴屋の他の兄弟はもちろんのこと、手代たちや番頭よりも店の売り上げに貢献しています。また「誓文払い」と言って、1日限りの店前現金(現銀)商売を実施して、蔵で死にかけている在庫一掃セールをするなど、個人だけでなく店全体の売り上げにも貢献できる柔軟な商才をもっていました。
あきない世傳(せいでん) 金と銀 惣次は突然の引退、失踪
ただ惣次に欠けていたのは経営者としての人格です。店の手代や丁稚に厳しく接しすぎるあまり必要以上に恐れられたり、幸が出す商売についてのアドバイスを疎ましく感じ、商売に口を挟まれることを嫌がるようになります。
挙句の果てに五鈴屋の江戸出店を急ぐあまり、江州浜糸の産地で不渡になることがわかっている両替商の手形をあえて掴ませて、五鈴屋の仕事しか受けれないように仕掛けます。
ただ産地ではこの両替商の手形が落ちないことを知っていたため、手形を受け取らずかえって大坂天満にある五鈴屋にまで出向いて取引停止を言い渡しにきます。
進退極まった惣次は、五代目徳兵衛の座を退き、幸と離縁することに。しかしこれらの重大事にもかかわらず、すべて書き置きで済ませてしまい、姿をくらましてしまいます。