【読書感想】未来型国家エストニアの挑戦 電子政府がひらく世界 (NextPublishing)

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紙の使用は森林を破壊する」。こんな斬新な表現は初めて聞きましたw この本を読んでいると日本でも2~3年ぐらいできそうです、ただし「技術的」にはですが。

目次

サーバーのアクセスに鍵認証の技術を使用

ヘタレエンジニアの自分が言うのも僭越ですが、エストニアの電子政府は決して難しい技術は使っていないと思います。例えば国民やそのデータ管理者が国家情報システムにアクセスする前のセキュリティサーバーで使われている認証技術です。

この認証技術は比較的よく知られており、自分もPCから管理しているサーバーにアクセスするときはこの技術を用いてます。秘密鍵と公開鍵という暗号ファイルを使いますが、それぞれの暗号ファイルはすぐに作成することが可能です。この認証技術を用いることで、全てとはいきませんがエストニア国民の「なりすまし」がかなり防ぐことができます。

鍵認証のシステムがどういう技術であるか、ご興味のある方は「アルゴリズム図鑑 絵で見てわかる26のアルゴリズム」や「世界でもっとも強力な9のアルゴリズム」を参考にしてください。

難問は「雇用問題」・「税制改革」・「習慣」

もし日本がエストニアの電子政府をマネするつもりであれば、システムを構築することよりも雇用制度や税制、生活習慣を変えることの方がよほど難しいと思います。理由は3つです。

1. 行政事務員の雇用問題

電子政府の本質はインクで紙の上に載せられる情報をただリモートサーバーにUPするだけではありません。電子政府が”0″と”1″だけの素朴なデジタルデータを保存することによって、あらゆる公共機関がサービス(銀行口座の開設、公共交通機関利用料金の支払い、薬の処方、病院での診察など)を提供するときに、人手ではなくインターネットを介して利用できることです。

そうなると今まで紙に載せられたインクから、目で情報を読み取ってサービスに使っていた人間の仕事が、ほとんど不要になってしまいます。

インクによる紙のデータとデジタルのデータでは、応用するときの取り扱いがまるで違います。労働力をすぐに転化することはできません。職業の再訓練とその間の生活保障をどうするかという問題(行政事務員をはじめとしたホワイトカラー職種の雇用問題)をクリアする必要があります。

2. 税制が簡素

エストニアでは所得税は税率が21%、社会税(日本の社会保険料に相当)は事業主負担の税率として33%ということだけが定められています。日本のように累進課税制度もなければ各種控除制度もありません。国民年金保険3号被保険者制度(通称:「130万円の壁」)もありません。

徴税しやすいように、税制そのものが「機械的」になっています。現場レベルで税率や税額を人為的に操作する余地は全くありません。

3. エストニア社会の雰囲気が北欧社会に近い

エストニアと聞くと「バルト三国」として旧・ソ連の「衛星国」のようなイメージが強いかもしれません。ですが民族的や心情的にはロシア社会というよりは、北欧社会(特にフィンランド)に近いそうです。

この本には書かれていませんが、北欧社会の人たちは大昔から子どもが生まれたら、すぐに教会へ行って子どもの個人情報を提供する習慣があったそうです。そのため現代人の感覚として報告する先が教会ではなく、国になっただけとのことです。

個人情報を提供することに心理的ハードルが低く、むしろ個人プライバシーに関わるごく一部の情報をのぞいては、情報をガラス張りすることについて大いにメリットを感じているそうです。

「国に見張られている」というよりは「国を見張ってやっている」というイメージでしょうか。北欧社会の事情については、「スウェーデン・パラドックス」を参考にしてください。

技術よりも世間の合意が必要

「電子政府」と聞くと「オープンデータ」とか「APIの活用」という言葉が連想され、素晴らしいスマホアプリやWebアプリのアイデアやその実用例が登場するかもしれません。インターネットの技術が「C(=Casual)」の世界から「S(=Serial)」の世界でも通用するようになったことは、喜ぶべき技術進化だと思います。

ですが、既存の法制度や習慣がその技術進化についてこられるとは限りません。すでに技術が法制度や習慣の変化を待ってあげるという時代に入っているような気がします。

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