先日、何気なくGoogle Alertからのお知らせメールで、日本版ライフハッカーの記事で「水泳ダイエット」に関する記事を見つけました。自分は10年近く週に4~5回のペースでプールで泳ぎ、かつ最近は400m個人メドレーにはまっています。日頃は歩く距離よりも泳ぐ距離の方が長い人間からすると非常に興味深い内容です。
ライフハッカーの「泳ぎ方」をツッコんでみる
ただ記事を読んでいると「あれ?」と首を傾げたくなるような箇所がいくつもあります。読み方・やり方によっては椎間板ヘルニア性の坐骨神経痛を引き起こしかねません。なので記事を読んで「おかしい」と思った箇所について、逐一ツッコミを入れてみます。
水中を動くために大きな抵抗を受けるので、筋肉をたくさん使う
「水にあらがったら筋肉をたくさん使う」のようにも読めます。真水の密度は空気中の約4,000倍あると言われています。水の抵抗を受ければ受けるほど、疲労がたまりやすく、泳げる距離が短くなります。「水の抵抗をすり抜けるために陸上では意識しない筋肉を使う」と表現した方が正確でしょう。
平泳ぎとバタフライは肩、腕、胸の筋肉に効果があり
平泳ぎとバタフライでもっとも意識して力をかける箇所は、おへそ周りのお腹・背中・臀部・ふくらはぎです(主に体の裏側)。これから水泳をはじめようよする方が、肩・腕・胸(体の表側)を意識すると関節を痛めたり、場合によって椎間板ヘルニア性の坐骨神経痛を発症します。
背泳ぎは背中、腹部、太ももを鍛えます
これも紛らわしい表現です。背中、腹部は意識して鍛えなければなりませんが、太ももは意識して鍛える箇所ではありません。初めて水泳に取り組む人にとってクロール・バタフライ・背泳ぎの推進力は上半身が中心となります。
意識してキックを打つと単に消耗がは激しくなるだけで、痩せるために必要な距離を泳ぐことができなくなります。
わずか30分の平泳ぎで、およそ367kcal使いますし、クロールならおよそ404kcal。
どういう基準でカロリーが計算されたか分かりませんので数値そのものには言及しません。ただ同じ時間・同じ距離を泳いでもクロールの方が平泳ぎよりもカロリー消費量が高いとは限りません。
クロールは左右の半身を交互に動かす動作をするので、泳いでいる最中の加減速の差が大きくありません。一定のスピードにのってしまえば、泳いでいる途中でスピードが0になることはありませんので、比較的ラクな泳法です。
それに対して平泳ぎは加減速の差が非常に激しい泳法です。全身が伸びきったあとに両手をかくときは、泳ぐスピードが0に近くなっています。一方でかき終わってから伸びきるまでの間はスピードが極端に上がり始めます。平泳ぎは上達するにつれ、加減速が激しくなるのでかなりしんどい泳ぎ方です。
持久力と身体の柔軟性も向上。
持久力はまあいいでしょう。泳いでいるだけでは身体の柔軟性はあまり向上しません。泳いだあとに何のケアもなければ体は硬直したままです。説明すると長くなりますので、理由を知りたい方は「運動前のストレッチはやめなさい 体を痛めず硬さをほぐす 効果倍増メソッド (SB新書)」を読んでみてください。
クロールのバタ足(下腹部に効果)やバタフライのドルフィンキック(腹部を斜めに走る“斜筋”を鍛える)などです。
水泳初心者の人はいきなり「鍛える」・「カロリーを消費する」ためのキックは控えましょう。上述しましたが単に太ももを使う動作は疲労を早め、泳ぐのがイヤになるだけです。
また初心者の方は膝のみに負担がかかる「ひざ打ち」をする傾向があります。キックで下腹部や斜筋を鍛えるためには、まず陸上の動作では意識しづらい背中の可動域を確保しましょう。
コナミスポーツクラブ水泳部所属の高安亮選手がクロールの正しい泳ぎ方を示されています。高安選手は下腹部・斜筋を使った振り幅の大きいキックをされていますが、このキックは背中の柔軟性を利用して、ムチをふるがごとく蹴り下げていることが分かると思います。
参考文献について
どこにでもいそうなただのおっさんが個人的に10年近く泳いでいるというだけでは、ここまで説明した内容について何の説得力もありません。最後にこの記事を書くにあたっての参考文献をあげておきましょう。
プールサイドから見て大きくきれいに泳げているよう人でも、実は陸上トレーニングやプールの隅っこで地味な練習泳法をこなしています。
「ひたすら泳げばダイエットできる」は、水泳の動作原理について何も考えてないことの言い訳にしかすぎません。水泳に限らずどんなスポーツに言えることですが、まずは基本動作をマスターしましょう。