三淵忠彦(みぶちただひこ)とは
虎に翼に登場する星朋彦（ほし・ともひこ）とは、実在した初代最高裁判所長官の三淵忠彦(1880~1950年)がモデルとなっていると考えられます。また三淵忠彦は、裁判官・三淵乾太郎の父であり、三淵（和田）嘉子の義理の父にあたります。虎に翼ではこの星朋彦に平田満さんがキャストされています。
三淵忠彦は、1880（明治13）年に旧会津藩士・三淵隆衡（たかひら）の長男として誕生しました。一度は東京帝国大学法科に入学しますが、両親と弟を相次いで失い、失意のため学業を中断してしまいます。それでもなお再度、京都帝国大学の法科に入学し、苦学の末に25歳で卒業しました。
民事裁判官の傍らで慶応大学で市民のための講演会も
京都帝国大学卒業後には、忠彦は地方裁判所の判事を務めたのち大審院判事となり民事裁判官として名声をはせます。そのかたわらで慶應義塾大学で民法を講義し、「法律民衆化の講演会」を開くなど、市民の視点に立った進歩的な活動を行います。
司法界で将来を嘱望されながらも忠彦は45歳（1925年）で判事を退官し、その後法律顧問とななった三井信託株式会社も60歳で辞任し（1940年）、自適の生活を送ります。その間「日常生活と民法」などを著し、漢籍・文学・芸術など広い見識を養いました。
1947(昭和22)年 初代最高裁判所長官に就任
その後、三淵忠彦は1947（昭和22）年、中央公職適否審査委員会の審査を受けていたあいだ、7月22日、7月28日と裁判官任命諮問委員会の選考する最高裁判所裁判官候補者に入り、8月4日には片山内閣に選任され初代最高裁判所長官に就任しました。
戦後、三淵忠彦は下痢の症状が頻発し病床に臥すことが多くなり、その病床からたびたび職務上の判断を行うことになります。病身となってもなお会津武士の風格を備えていたと言われています。しかし残念ながら三淵忠彦の体調は回復することなく1950年に定年退官し、退官した4ヶ月後には亡くなります。
三淵忠彦が初代最高裁判所長官に就任できた理由は、法の知識はもちろんのこと広く市民に開かれた見識や戦時中に公職から身を引いていたということなどの理由が挙げられるのではないでしょうか。
三淵忠彦と家庭裁判所
「虎に翼」のネタ本とも言える「家庭裁判所物語」によると、最高裁家庭局初代局長に就任した、宇田川潤四郎は家裁のあるべき姿を説いた「家裁の五性格」を1949（昭和24）年1月に発表します。
それまで暗く閉ざされた裁判所のイメージを覆す「家裁の五性格(家庭裁判所に必要な五大基本性格)」は、法曹界の一部で不評を買っていたようですが、それでも宇田川潤四郎が家庭裁判所のイメージを世の中に打ち出せたことは、当時、最高裁長官であった三淵忠彦が進歩的な人物であったことが影響していたとも考えられます。
宇田川潤四郎とは 多岐川幸四郎のモデル
虎に翼での星朋彦は家庭裁判所設立記念式典に出席
このように実在した三淵忠彦は戦後に発足した最高裁判所の初代長官だけでなく、市民に開かれた法を目指す裁判官というイメージもあります。その進歩的な三淵忠彦のイメージは虎に翼の第12週「家に女房なきは火のない炉の如し」で登場する星朋彦にも反映されています。
家庭裁判所のことが気になる星朋彦
星朋彦も、三淵忠彦が最高裁長官就任後に病気に悩まされていたのと同じく体調が優れません。それでも病がちの体を押して、家庭裁判所設立の記念式典には「家裁は新しい司法制度の象徴である」といってわざわざパーティーに足を運んでいます。これは実在の星朋彦のモデルである三淵忠彦が進歩的な裁判官であったことを反映した演出なのかもしれません。
またこのとき星朋彦は、最高裁人事課長の桂場等一郎（松山ケンイチさん）を伴い、佐田寅子に直接「東京家庭裁判所判事補兼最高裁家庭局事務官」という辞令を手渡しています。最高裁長官が下っ端役人に過ぎない佐田寅子に直接辞令を手渡すなど破格の扱いです。
星朋彦と佐田寅子の出会い
ちなみに実際の三淵忠彦は職務上の都合で、三淵（当時の姓は和田）嘉子を執務室に呼び出し、直接話をしたことがあると言われています。職務上の関係を考えると、三淵嘉子は三淵忠彦を見上げなければ見れないような存在です。ひょっとすると星朋彦が寅子に直接辞令を交付するというエピソードは、三淵忠彦と三淵嘉子の最初の出会いを参考にしているかもしれません。
