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キャッシュレス社会を実現したければ現金払いを不便にすれば良いというお話

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あらかじめ断っておきますが、自分はキャッシュレス決済推進派です。例えばお昼ごはんを食べるために、すき家・吉野家・松屋が目の前に並んでいたとしましょう。自分は迷うことなくすき家に入ります。なぜならこの3つの外食チェーンの中で電子マネー(ICOCA)を使えるお店がすき家だけなので。

補助金でキャッシュレス決済は普及しませんよ

ところで先日、日本経済新聞電子版(2018年8月21日付)でこんな記事を読みました。政府は中小事業者に対して、計画に沿った決済基盤を提供する事業者には補助金の支給を検討しているそうです。個人的には「補助金なんか使ってもなんてキャッシュレス社会なんか実現せーへんわ」というのが正直な感想です。

補助金は消費者に還元されるの?

記事を読んでいる限り、政府は一定の要件を満たす決済基盤を導入した民間事業者に対して補助金を支給するようですが、消費者に対して何か金銭的なメリットがあるようなことは書かれていません。電子マネーやクレジットカードを使っても財やサービスの価格に反映されなければ、現金支払いが好きな消費者はおそらく現金を使い続けるでしょう。

市場価格を歪める補助金

さらに一般的な財やサービスを提供する民間事業者に対して、補助金を支給することは経済学的な観点からすると筋の悪い政策です。市場で決まるはずの財やサービスの価格が政府の補助金によって歪められ、価格が本来もつ価値の情報が分からなくなります。

もし個々の事業者が売れない商品を電子マネーで購入した場合、その商品を値引きして販売するとしましょう。値引きの原資は政府から支給される補助金です。そうすると本来は市場で淘汰されるはずの商品が生き残ってしまい、消費者の利便性が損なわれる可能性があります。

ちなみに補助金が筋悪な政策であることについては、ミクロ経済学の初学者用のテキストでよく指摘されています。ご興味のある方は、クルーグマンミクロ経済学(新しいタブで開く)で、価格に関する「上限規制」や「下限規制」の項を読んでみましょう。

キャッシュレス決済を「相対的」に便利にする

ここで話を終えてしまうと「お前は政府の政策をdisるだけか」と言われてしまいそうですね。なのでキャッシュレス決済が浸透するための私案を3つ挙げます。個人的にはキャッシュレス社会を実現したければ、キャッシュレス決済を便利するよりも、現金決済を不便にすればよいと考えています。

提案その1 紙幣・貨幣の種類を減らす

現在、日本では10,000円札、5,000円札、2,000円札、1,000円札、500円玉、100円玉、50円玉、10円玉、5円玉、1円玉が流通しています(記念硬貨を除く)。実に10種類の紙幣・貨幣が出回っています。これらの紙幣・貨幣を一気に2,000円札、500円玉、1円玉の3種類まで減らします。

これだけで現金の使用はかなり不便になるでしょう。スーパーやコンビニなど少額取引がメインのお店では、こぞって電子マネーやクレジットカードの使用を奨励するのではないでしょうか。

提案その2 紙幣・貨幣の質を落とす

よく「現金を受け取るとお金のありがたみが分かる」という言葉を聞きます。もしキャッシュレス社会を実現したければ、そのありがたみを失くせば良いのです。

具体的にはこうです。日本銀行で新しく刷られた紙幣は全て海水で揉み、天日に晒したのちに市中銀行に持ち込みます。また貨幣に使う金属は、重くて腐食しやすい卑金属にします。化学的には貨幣の主原料として鉄が最適でしょう。くしゃくしゃの紙幣とサビだらけの貨幣を受け取った人は果たしてどういう気持ちになるでしょうか。おそらく「現金のありがたみ」は激減すると考えられます。

ちなみに「紙幣・貨幣の質を落とす」という考え方は、ハーバード大学で教鞭を執られているケネス・ロゴフ教授(国際マクロ経済学・国際金融論専攻)の著書、「現金の呪い(新しいタブで開く)」からいただきました。

提案その3 紙幣・貨幣を容易に回収しない

「紙幣・貨幣の種類を減らす」・「紙幣・貨幣の質を落とす」ことはすぐに分かることなので、反発も大きいでしょう。もっとも現実的に考えられる手段が、古くなったり損傷した紙幣や貨幣を容易に回収・交換しないことです。

市中銀行に汚い紙幣を持ち込むときれいな紙幣に交換してもらえますが、その交換手数料をべらぼうに高くします。すると現金を使う人は汚い紙幣を使い続ける可能性が高くなりますので、やはり「現金のありがたみ」が薄れると考えられます。

以上、3つの提案はあくまで私案です。要はキャッシュレス社会を実現したければ、キャッシュレス決済は現金決済と比較して相対的に便利であるということが分かれば良いのです。