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【読書感想】言ってはいけない中国の真実 (新潮文庫)

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一般に「人が多い」という言葉を使っても、他の人にその言葉の意味を伝えることはできません。何と何を比べているのかが分からないからです。ただ「中国は人が多い」と言って他の何かと比べなくても、それほど違和感はなく誰とでもコミュニケーションが成立するのではないでしょうか。

そんな誰にでも通じるような事実からはじめて、数千年と14億もの人口から成る中国について概要を説明するのにこれほど分かりやすく説明されている本は自分は読んだことがありません。

中国はなぜ人が多いのか?

そもそも中国ではなぜ人が多いのでしょうか?この事実も非常に分かりやすく説明されています。理由は「アジアでは稲作が可能だったから」です。

米は同じ土地での連作が可能で土地を休耕させる必要がありません。アジアには二毛作どころか三毛作も厭わない土地もあるぐらいです。必然的に食料の大量生産が可能となり、多くの人口を養うことができるようになります。

一方、ヨーロッパでは伝統的に小麦が栽培されてきました。小麦は連作をすると土地が痩せて次第に使えなくなってしまうため、一定の年ごとに土地を休耕させる必要があります。そのためヨーロッパではアジアの場合と逆に、大量の食糧生産ができません。どうしても人口が頭打ちになってしまいます。

やはり、橘さんは「米と小麦」という具体例をもって、「中国は人が多い」という誰にでも分かる事実の理由を説明されています。

日本の労働集約は勤勉革命を生む

ここまでであれば「なるほど一つ知識が増えた。よかった、よかった」で終わってしまいます。ですが「中国は人が多い」という事実は「日本は人が多い」という事実にも当てはまり、現代日本人の働き方にも影響を及ぼしているでしょう。

例えば2014年に放送されたNHKの「クローズアップ現代」です。パワーアシストの普及によって社会に与える影響について紹介されました。確かに技術の進化によって重度の障害者でも活動できる範囲が広がることは素晴らしいことだと思います。

機械の労働は人間の補佐

ただ本書と関連づけるならば、この番組の重要なポイントは後半部分です。番組に関連して力仕事をされる方のインタビューが紹介されています。

「何日も繰り返して作業していると、腰に負担がかかるので、サポートしてくれる力が、すごく楽に感じています。」

「持ち上げるのが楽で、一瞬で持ち上がるので。」スーツを使えば、3分の1の力で荷物を持ち上げることができます。

これらのコメントは「言ってはいけない中国の真実」で説明されている東アジア特有の「人海戦術」とリンクします。個人的な見解を言えば「パワーアシストを開発できるぐらいの技術力があるならば、人間の肉体に負担がかかる仕事は全てロボットに任せたらええやん」なんですが。

もちろん機械だけには任せられない繊細な力仕事もあるでしょう。ただ労働(labor)をすべて機械任せにせず、人間をどこかに介在させるという発想は「人が多いから」というごく単純な事実に基づいているのではないでしょうか。

社会の秩序を保つための勤勉革命

橘さんは江戸時代を例に取り、すべての作業を家畜に任せて人間を労働からあぶれさせてしまうと、社会の秩序が保てなかっただろうと指摘されています。社会の秩序を保ち、定常状態にするため勤勉革命(「人が働くことは尊い」という労働集約的な発想)が生まれ、農業生産が飛躍的に伸びました。

徳川家康が江戸に幕府を開府したときは1,000万人程度だった日本の人口は、幕末期には3,000万人以上にまで増加しています。

ヨーロッパの資本集約は産業革命を生む

一方、中世ヨーロッパでは黒死病(ペスト)の流行によって人口が半減しました。そのためただでさえ人口を養うことが難しい土地で、さらに追い討ちをかけるがごとく耕作者も減ります。

そこで、ヨーロッパでは人間が生きるために必要な消費カロリーを効率良く摂取するために、牧畜業が盛んになりました。小麦の栽培であれば多数の人手を必要としますが、食用の牧畜であればに人間一人と牧羊犬一匹で大量の食糧生産が可能です。

アニメ「アルプスの少女ハイジ」でよく見かけるようなシーンを想像してみてください。ハイジやその登場人物たちのように農業に人手をかけず、家畜にリソースを割く資本集約的な発想は、近代の西洋で勃興する産業革命の原点となります。その辺の詳細については、デービット・アトキンソンさんの本で詳しく紹介されています。興味のある方はぜひ参考にしてください。

中世ヨーロッパの黒死病から始まる「Amazon Go」

今、アメリカでは「Amazon Go」なるレジ労働不要の小売店が普及しつつあると聞きます。「Amazon Go」は機械でもできる労働は機械でやってしまうという、まさしく資本集約的な考え方を象徴しています。Amazonの発想も中世ヨーロッパで人口が半減してしまったからという、歴史的な事実に端を発する技術進化でしょう。

とまあ、「中国は人が多い」という事実からなぜか「Amazon Go」の話になってしまいました。ですがそれだけ現代日本に生きる我々にとっても非常に示唆に富む本だと思います。

日常の仕事から起業や副業に到るまで「何を作るのか・するのか」ということも大切ですが、「なぜそれを作るのか・するのか」という考え方はもっと大切です。「なぜ」の答えが異なると最終成果物がまるで違ったものになるからです。そのような仕事の本質に迫ることができるという意味で、より多くの人におすすめしたい一冊です。