この本の面白いところは「いかに稼ぐか」というよりは「いかに余計な費用を出さないか」にあると思います。特に以下の3点については大変参考になりました。
- その39 安定して事業が続く「お金の回し方」 → 手元に残すべきキャッシュの目安
- その42 儲かっていても破綻するケース → 消費税は後払いというワナ
- その43 個人事業主が「法人成り」した方がいいケース → 法人化するメリット
社会保険の加入はメリットか?
ただし、社会保障オタクとして読んでいて気になった箇所が一つあります。「法人成り」に伴う社会保険の加入にメリットがあるかどうかです。
個人事業主が「法人成り」すると、国民健康保険は健康保険に変わり、国民年金保険1号被保険者から2号被保険者(厚生年金保険の加入者)にそれぞれ変わります。
健康保険加入について
健康保険加入できることはメリットであると言えるかもしれません。おそらく「法人成り」した法人はまず半官半民の「協会けんぽ」に強制加入です。ただ法人の事業内容や年齢構成・従業員の健康状況によっては保険料率の低い健康保険組合に移れる可能性があります。
国民皆保険制度の元で同じ医療を受けられるならば、料率の安い健保組合に加入できるに越したことはありません。また法人成りすることは個人事業主が法人に雇われる従業員になります。それに伴い国民年金保険の1号被保険者から2号被保険者に変わり、親族を被扶養者にできることも健康保険加入の大きなメリットであると言えるかもしれません。
厚生年金保険について
厚生年金保険加入ははっきり言ってデメリットです。2018年3月26日(月)現在、外務大臣をされている河野太郎先生のブログ「ごまめの歯ぎしり」を引用します。
厚労省は、年金制度が破綻することはないと言い張ります。
なぜ、そんなことが言えるかといえば、厚労省の年金破綻の定義が世の中と違うからです。
厚労省は、制度に基づいて年金が支給できていれば、年金額が月に一円になったとしても、それは制度がしっかりと維持されているといえる。だから破綻ではないといいます。
国民からみれば毎月一円の年金をもらってどうしろというのか、そんな年金は全く意味がない、つまりそんな年金制度は破綻しているではないか、と言いたくなります。
毎月一円の年金で、どうやって暮らせというのかと厚労省に質問すると、年金だけで老後が暮らせるように保障すると言ったことはない、それぞれが老後のために必要なことをしているというのが前提だ、などと答えてきました。
少子化で、次の世代の人数が少なくなる日本では、賦課方式ではなく、それぞれが将来のために年金の原資を積み立てる積立方式の年金制度に移行するべきです。
こう言った類のことは政治家だけが言っているわけではありません。社会保障を専門とする経済学者では、すでに合意取れているような事項です。
公的年金の純負債総額は15年分の年金額
「社会保障亡国論」(2014年)を書かれた学習院大学の鈴木亘先生は、公的年金の純負債はすでに850兆円に達していると推測されています。850兆円と言われても数字が膨大すぎるので実感が湧かないと思いますが、1年間の公的年金総支給額の14年から15年分に相当します。
現在、一般的に年金支給開始年齢は65才と言われますが、その年齢を80才に引き上げてようやく「借金がチャラ」になるレベルです。この数字こそが「厚生労働省の幹部が1円でも年金を払っていれば、制度は破綻しないと言われる」ゆえんでしょう。
厚生年金保険よりも、たとえ低利でも積立方式として掛金がしっかり返ってくる国民年金基金の方がまだマシだと思うのは私だけでしょうか。
「障害」・「遺族」があっても割りに合わんのでは…
ちなみに厚生年金保険には「障害年金」や「遺族年金」もあります。だからと言って給料の約20%も天引きされることは、保険サービスとして保険給付と保険料率のバランスが取れているかどうか甚だ疑問です(保険料は労使折半ですが「使」の負担分は「労」の報酬を下げれば良いので、ほとんどのケースにおいて「労」が実質上の負担をすることになります)。
法人成りのメリットは総合的に検討を
と、ここまで「フリーランスが稼ぐ方法」を大きく逸脱して、厚生年金保険のイタイところをつつきまわしました。ただ個人事業主が「法人成り」することのメリットやデメリットについては、本書でも紙幅を割いて説明しています。
結局のところ、これまでの取引や将来の事業内容を精査して「法人成り」することにメリットを感じられれば、厚生年金保険は必要経費として甘受せざるをえないと思います。