金融排除 地銀・信金信組が口を閉ざす不都合な真実 (幻冬舎新書)と、シナリオ分析 異次元緩和脱出 出口戦略のシミュレーションでは著者や金融機関に対する意見はそれぞれ異なります。それだけに同じジャンルでも異なる立場の人たちが書いた本を読むことは、とても重要なことであると改めて実感しました。
既存の銀行は縮小均衡の道へ
「金融排除」では、「地銀・信用金庫・信用組合(と金融庁)がんばれ!」という私設応援団みたいな構成となっています。ただ個人的な意見としては、既存の銀行は三メガ銀行も含めて何をやっても「焼け石に水」で縮小均衡しか道は残っていないと考えています。
一方、「異次元緩和脱出」では銀行が今の規模(銀行数・支店数)で生き残れるか、どうかについては書かれていません。その代わり日本銀行が異次元緩和をやめて、金融政策を引き締めに方向転換したときのシミュレーションが精緻になされています。このシミュレーションを読む限り、金融緩和を続行しても金融引き締めをしても、結局のところ銀行経営は苦しいことがよく分かります。
日本銀行が異次元緩和を続行しても、金利が低すぎて銀行は貸出先からの利ざやは稼げません。一方、利上げをすれば貸出先からの利ざやは稼げても、国債を大量に保有している銀行のバランスシートが痛みます(国債の金利と価格は反対方向に動く)。
戦略での劣勢には抗しがたい
https://twitter.com/aaannchang/status/947757291956158464 https://twitter.com/bikeeigyoubike/status/981633616357703680みずほグループ 来春の採用者数ほぼ半減と発表 #nhk_news https://t.co/Ce6j50qUUu
— NHKニュース (@nhk_news) April 10, 2018
言い換えるとミクロ(戦闘・戦術)でいくら頑張っても、マクロ(戦略)での劣勢は取り戻せないというところでしょうか。Twitterの金融クラスタで銀行の内部事情を定期的にウオッチさせてもらっていますが、いまの銀行経営は限界に達していると言わざるをえません。
さようなら銀行員、こんにちはエンジニア
もちろん銀行という金融機関そのものがなくなることはないでしょう。銀行が苦しいのは利ざやが稼げない、資産状況が危ういということもありますが、他にも要因はあると思います。
- 銀行経営における人件費が高い
- 新規のビジネスモデルが見つけられない
今のご時世においてどんな商売が当たるかは分かりません。ただビジネスの規模が小さければローリスク・ローリターンの商売は期待ができます。カードローン並みの貸出金額を銀行融資並みの金利で融資を実行すれば、概念的には銀行のビジネスモデルは成り立つのではないでしょうか。
もっとも、そうなれば巷で言われているように銀行に銀行員はほとんどいなくなり、エンジニアしか残っていないような気がしますが。
もう10何年も前の話ですが、大手都市銀行に勤めている自分の知人が「うちの銀行は絶対につぶれない」と言っていました。おそらく「絶対につぶれないから、自分はリストラされることもない」ということを言いたかったのでしょう。確かにその銀行はつぶれはしないでしょう。
ただその知人の雇用や給料は今後どうなるのでしょうか。これら2冊の本を読み終えると思わず空目になりました。