経産省若手官僚レポートのネタ元はこちらですね。2017年に公開して以来、150万ダウンロードされたというPDFファイルは。自分もしっかりと読ませていただきました。
自分が読んだ直後の感想は、「なんじゃこりゃ、このつぎはぎだらけのレポートは」です。
- ネクスト・ソサエティ ― 歴史が見たことのない未来がはじまる (P・F・ドラッカー)
- 勝者の代償―ニューエコノミーの深淵と未来 (ロバート・ライシュ)
- 社会保障亡国論 (講談社現代新書) (鈴木 亘)
わざわざPDFファイルをダウンロードして読まなくてもすでに出回っている本を読んで、レポートに書かれているようなことは既知のことだったからです。
経産省若手官僚レポートの評価できるところ
ただ日を改めて読み返してみると、「よく出来たレポートだな」と一転して評価が変わりました。自分が評価している点は以下の2点です。
1.音声が大きいスピーカー
このレポートには社会保障の問題について、かなり突っ込んだ記述があります。自分も福利厚生関係の仕事をしたことがありますが、年金をはじめとした社会保障の話って、正常性バイアスが働くせいか誰もまともに聞いてくれないんですよねー。
必死に聞いてくれるときというのは、すでに「コト」が起こってしまったときです。例えば失業した時に支給される雇用保険の基本手当の支給や、私傷病による休職で支給される健康保険の傷病手当の話とか。
そういった意味で経済産業省という大きなプレイヤーが警報を鳴らすことは、市役所の防災放送と同じで音が大きいスピーカーとして適当であると考えます。
2.具体的な政策が書かれていない
もう一点は割と個人的な「思い」が先行していて、具体的な政策に関する落とし込みがないというところです。本書ではレポートについて3人の有識者から感想を述べてもらっています。3人とも「保育園落ちた日本死ね」のようなあからさまな表現はされないものの、「今の日本はもう詰んでる」と感じられるようなスタンスです。
個人的にはそういった有識者の方と同じような感じで、「将来に向かって日本列島と人間さえ残ればいいんじゃないですか」という考え方です。その上で政府の仕事として「何をやるか」ではなく、「何をやらないか」のリストを列挙して粛々と実行してもらうことを求めています。
墓穴を掘って自ら埋まってもらうことが公務員の仕事
ミクロレベルの現場で働いている公務員の方には申し訳ないのですが、マクロレベルでは「自分の墓穴を掘ってもらってその穴に自ら入ってもらう」ということが、21世紀の公務員が公共に奉仕するべき大きな仕事であると考えています。
政府の仕事は治安・防衛・外交・防災・司法・貧困対策などをデフォルトスタンダードとして、「市場の失敗」に対して何をやるか(もしくはやらないか)を言論空間や議会を通じて議論すべきでしょう。
もし公務員の方がデフォルトスタンダード以上のことをやりたかったら、「官」ではなく「民」の立場で実行すればいいのではないでしょうか。日本は職業選択の自由が認められている国なので。
これからも打鐘だけは続けてください
政府が国民の世話を焼きすぎるとより多くの税金が必要になります。自由が認めらているはずの国で、人の行動の自由を奪う税金の徴収や使い道については、慎重の上にも慎重を期さねばなりません。ただ経済産業省が問題提起して情報を出すぐらいなら、税金の使い道として「可」であると思います(出す人にもよりますが)。
本書を通じて経済産業省が「親方日の丸株式会社」の経営コンサルタントであることがよく分かりました。これからも「墓穴を掘って埋める」以外の仕事はせず、「半鐘を打ち鳴らすことだけ」は続けてやっていただいても構わないかと考えています。