「今年からうちの会社で確定拠出年金制度始めまーす」と人事課福利厚生係の方に言われて困っている「運用難民」向けの本です。バランスが取れていて「良心的な内容」だと思います。
運用の「コスト」について
確定拠出年金制度に限らず、資産運用のリターンは「必ず●%のリターンが得られます」ということは言えません。
信託報酬と税金だけは確実に分かる
運用慣れしていない人は、確定拠出年金制度の中で提示されている金融商品のラインナップを見て、つい「△△市場のインデックスを上回ることが期待できます」ということに目が行きがちです。
ですが、初心者の方は「△△市場のインデックスを上回ることが期待できます」という箇所はあまり見ないほうが良いでしょう。むしろ費用として確実に徴収される信託報酬・利子所得や退職年金所得に関わる税率や控除額、毎年変わる政府の税制大綱などを把握しておいた方がためになります。
初心者はアクティブファンドよりもインデックスファンドを
運用に自信がない人は「国内株式型+外国株式型+国内債券型+外国債券型」の、信託報酬が安いインデックスファンドで資産を組み合わせておくことが、もっとも無難な運用方法だと思います。
なおアクティブファンドは運用者の運用方針をよく理解し、たとえ暴落しても甘んじて受け入れる覚悟がある場合のみ購入した方が良いでしょう。でないとやたらと高い信託報酬が邪魔をして、複利効果で得られるはずの利益を損なってしまう恐れがあります。
ホームバイアスと国際分散投資について
「国内株式型+外国株式型+国内債券型+外国債券型」というと、ホームバイアスがかかって、拠出金の運用先が「国内株式型+国内債券型」のファンドに偏りがちになります。
日本に定住していると収集する情報が日本人向けの情報に偏りがちとなり、日本の金融商品の方が安心であるという錯覚に陥ります。
国内株式型と国内債券型ファンドの割合は
かつてGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)で運用委員を務められていて、慶應義塾大学ビジネススクールで教鞭を取られている小幡績先生は著書で、年金積立金における資産運用の割合として日本株の投資割合は2~5%(P.238)、国内債券の投資割合を10%弱(P220)が最適であると述べられています。
同様に「はじめての確定拠出年金投資」でも世界経済における日本経済の小ささが強調されています。世界中の株式市場の時価総額を100としたときの割合は、米国が53に対して日本は8.4です(P107。2016年2月時点)。
若い世代になるほどインフレリスクに晒される
こう言った現状を踏まえると、特に年齢が若い世代の方には、資産運用の組み合わせとして、国内株式型や国内債券型のファンドで固めるのはいささか危険な行為であると言わざるを得ません(ただし外国株式型や外国債券型ファンドの為替リスクや高めの信託報酬なども考慮してください)。
年齢が若いと年金受給開始年齢(60才)までの期間が長くなり、必然的にインフレリスクが高くなります。日本株のリスク・リターンが低いことが「仇」となってしまう恐れがあります。
自分の頭で考えて運用しましょう
60才までの運用期間中に定期的に資産の組み合わせを、「リスク・リターンが高い」から「リスク・リターンが低い」に構成を変えていき、年金受給間際に定期預金に変えていく方法が最善の策ではないでしょうか?
「資産運用はよく分からないから」というだけの理由で、若いうちから積立金の全額を定期預金という名のインフレリスクに最も弱い金融商品に投資するのはもっとも危険な運用方法であると思います。定期的に自身の運用状況を確認して、資産の組み合わせを考えるようにしましょう。