このポスター、インパクトが強烈ですよね。某ショッピングセンターを何気に歩いているだけなのに、「最低賃金は絶対に守らなきゃシャレにならん」という印象を脳に刻み込まれてしまいましたw
エンケンさんが最低賃金引き上げのPR
「エンケンさん」こと遠藤憲一さんは今、NHK連続テレビ小説「わろてんか」で、ヒロイン・藤岡てん(葵わかなさん)のお父さんである藤岡儀兵衛を演じていらしゃいます。いつも強面で笑うのが苦手、たまに笑ってもやはり強面という役柄です。
「絶対に守らなければならない最低賃金」をPRするために、大阪労働局(厚生労働省)がエンケンさんを起用したくなるのも分かります。下半期の朝ドラはNHK大阪放送局が企画・放映していますしね。
エンケンさんよりも高橋一生さん?
ただ社会保障オタクとしてモノ申すと、厚生労働省はミスキャストをしていると思います。法律で賃金の下限を強制する最低賃金制度と、(個人的な主観ですが)エンケンさんの強面イメージは経済学的に非効率な状態を生み出しかねません。
同じく「わろてんか」から俳優さんを起用するなら、「守れる事業者の方は努力義務程度に守ってね。どうぞよろしくお願いします^^」という物腰が柔らかそうな方を起用してほしかったものです。個人的には高橋一生さんあたりがちょうど良いかと思っているのですが。
最低賃金制度は価格統制の一種
ミクロ経済学における基礎的な考え方では法律でもって強制的に最低賃金を引き上げて、事業者が絶対に守ってしまうと社会全体の厚生(富の分配)が下がります。内部の労働者の厚生は上がりますが、外部の労働者つまり失業者の厚生は下がります。その下がった厚生のデメリットは上がった厚生のメリットを上回ってしまいます。
その他、賃金の上昇分を生産性の上昇で補えない事業者は、倒産・廃業するか「ヤミ労働」の供給を求めてしまうという副作用が発生する恐れもあります。
「最低賃金ガー」と言うといろいろと主観的な価値観が飛び交い、話の噛み合わない議論になるかもしれません。ただ初学者用のミクロ経済学のテキストで「価格の下限規制」という項目を見れば、最低賃金だけでなく上位概念の「価格統制」そのものが社会全体の厚生を下げることが視覚的に分かります。
大竹文雄先生と鶴光太郎先生の最低賃金理論
それでもなお「最低賃金ハー」とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。そういった方は「最低賃金を上げた方が社会全体の厚生が増加する」と言うことをおっしゃりたいのだと思います。
確かにおっしゃる通りでそういうケースもあります。人口に比して事業所が極端に少なく、事業者が労働需要を「独占」している場合には、行政が介入して最低賃金を引き上げた方が社会全体の厚生は増加するそうです。
しかし、最低賃金を上げて社会全体の厚生が上がるのは、かなり稀な事例です。そのへんの難しい説明については、テックなブログで説明する範疇を超えています。大竹文雄先生や鶴光太郎先生の最低賃金に関する理論をぜひ参考にしてください。
同じ厚生労働省の地方部局で強面のエンケンさんを起用するなら、労働局ではなく厚生局の麻薬取締部で麻薬や覚せい剤の撲滅キャンペーンポスターで起用した方が、PR効果は絶大だと思います。あと大阪府警、京都府警、兵庫県警でもいいかもしれません、あくまで個人的なイメージですが。